第三章:『フランクの瞳に映るヴィジョン』 - コペル からだとの会話

第三章:『フランクの瞳に映るヴィジョン』

フランクの施術院、心体融和道に担ぎ込まれて施術を受けてから、2週間が過ぎていた。


いつもだったらぎっくり腰をしたら10日間は、時間を無駄にする。トイレは這っていかなければならないし、いつもならば今頃はまだ寝込んでいただろう。
だがその翌日にはもう体の不調が劇的に減っていることがわかった。もちろん完璧っていうことじゃない。だけど、生きているのがやっとという苦悶の時間を送るまでの苦しみはなくて。立ち上がるとき、ヨッコラショと親父のような掛け声が必要なぐらい。

施術をしてもらっているときに僕の腕や足の関節にあったボール状の硬いしこりに気づいた。そこで血が止まっていたから手足が冷たり、神経が麻痺してしびれてしまっていたんだということも察しがついた。年々、体の冷えの症状がつらくなってきて、このまま体が冷え切ってしまうから長くは生きられないと感じていた。だがこのようなしこりを取れば、とってしまいさえすれば僕の体の血管のチューブは血を普通に流してくれるようになるはずだろう。フランクが、僕のそけい部や肩の内側のしこりを触りながら「あなたの手足は血管がここでダムされてますね。こんな”ダム”は”ムダ”なんですな。オッホホホ!」だって。そういえばこんなダムはムダっていうダジャレが好きみたい。

とりあえずフランクのおかげで順調に卒論の提出めどがついた。

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就職することも、前向きに考えてもいいかなと思い始めた。僕って、こんなにゲンキンなやつだったのだろうか。自力で生活費ぐらいはバイトで稼ごうとして、喫茶店でウエイターの仕事をしたんだ。だが一日目で腰が痛くなって、二日目で熱が出て、三日目で辞職勧告。要するにクビになった。これじゃ社会に適応性なし。せめて最近流行のネットでFXをしてみたが。でも途中で、運悪く、景気がはじけた。ゲームオーバー。どうもついてなかった。

やはり、健康になって働けるほうがいい。僕は油まみれで働く工員になってみたかったんだ。近所にあった3人で働く小さな町工場で、僕はそこで教えてもらったことが、今でも胸に残っている。「坊主。この一枚の金属板がな。どんな形にだってなるんだ」といって、とんとん、かんかん。「かなづちひとつでな。ほぉらよってぇ」といって、僕のためにスチール製の筆箱をこさえてくれた。それを今もずっと使い続けている。

だけど僕の小さな子供ほどの体格でしかない握力では重いハンマーは握れない。
目はギラギラしているがもやしっ子で運動神経はゼロというよりマイナスだ。それが何か欠けた人格を持って生まれたようで悲しかった。
町工場の社長がいっていた。「お前には、工員はむりだよ。だけどよ。今はな、機械の時代だ。機械を知れ」
そういいながらさびしそうだった。仕事がなくなってリストラしていく職人たち。
今、思えば、この町工場は今は3人で仕事を回している。だが昔は10人、働いて活気があったときがあった。
「機械を使えりゃ。そうすればこの俺が坊主を雇ってやっからよ」と無責任なことをいって笑っていた。
「僕は、でもこんな筆箱を作りたいんだ。そんなものを作り出してみんなを喜ばせる仕事をしてみたい」

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そんなやり取りがあったことを、今も懐かしく思い出す。
大学進学は、機械を使えりゃというキーワード通りに機械使ってする工業を学ぼうってことで、機械工学。
三つ子の魂、百まで。

だけどその町工場の社長は、年老いた最後の職人を解雇した。僕の筆箱を作ってくれたやさしい職人。機械化が進むことで、手仕事で味のある仕事をする職人の職場が奪われているのだろう。今の時代は、職人の動き方や仕事の方法をセンサーでデータをとり、分析して機械にそれをやらせたりする。それはITの力を使う 革命的な進歩でもあるが、たたき上げの職人がいなくなれば、次はないのに。。。

教授の下した卒論のハードなノルマをどうにかクリア。ずいぶん助教授の佐々木先生に、世話になった。それだけじゃなく、助教授には世話になった。
そんなときに助教授が、僕を釣りに誘ってくれた。唐突で驚いた。多摩川の支流にあたる秋川渓谷へ渓流釣り。3月にヤマメが解禁になる。その釣りにフランクも参加するということだ。僕は、あれから卒論が忙しくてお礼もいえなかった。それだけじゃない。大学院に行くことを希望していたので、卒論を書いた後は時間ができる。僕のプランはそこでフランクに施術をお願いしてなおしてもらいたかった。そうやって僕の未来は明るく輝く。だから、フランクにそのことを頼もうと思っているんで絶対に参加希望しなくっちゃ!


見回せばそこに、奥多摩の自然界。




ヤマメを狙うということで、助教授と僕は秋川渓谷の岩をさかのぼり絶好のポイントめがけて行軍した。死ぬほど息が切れていたが、先だってのように助教授におぶってもらうわけにはいかない。足を岩場に取られながら進んでいくと、岩の上に人影を見つけた。フランクだ。

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フランクは僕を見つけ「おぅ。青年。もう腰はダイジョウブ、ですか?」って声をかけ、肩をぽんっとたたいてきた。そして僕の隣にいた助教授が「コペル、よかったよな。俺にも感謝しろよ」って豪快に笑いながら僕の背中をバシッと。僕は咳き込みながら「は、はい。ありがたく存じ上げてます」と先日の礼をいった。
フランクは「あなたは、”コペル”さんなんですか。いい名ですね」ちょっと驚いたようだった。そして僕の顔を真剣なまなざしで見つめ、「君は、コペルニクス的な発見をする宿命を持っているのかもしれない。私にはそれが始めてあったとき直感でわかっていた」
そして助教授が「そうそう、コペルは優秀なうちの学生っていうのは保証するよ」そういってにやりと笑いながら「だけどこいつぐらい強情なやつはいなくってな。死にそうな顔をしながらあれからずっと卒論を書き続けてたんで、こちとら危なっかしくてしかたなかった。弱々しいけど、いい卒論かいてくれたよ」
フランクはやっぱりいった。「たまごの芸術的な立て方の研究ですか?」「そうですよ。僕は7つは理論的にたまごを積み重ねることができるっていう卒論を書いてたんです!」

そこからがもっと大変な行軍となった。
二人は僕の存在をもう忘れていた。
「もっといいポイントを知っているんだ。こないだ俺が見つけた絶好ポイント。おそらく誰も知らないポイントだ。どうだフランク、いってみるかい?」「もちろんだとも!」
やっと休めると思ったのにぃ。安心していた自分が甘かった。この二人は超人的な体力の持ち主だってことをこれから悟ることになるのだから。

沢を登り、水に入りズボンはずぶぬれで、シューズはもう重さが5倍。山猿とツキノワグマが勢い切ってぐぉ〜っと一心不乱に駆け上がる。そのあとにかかし男がコケながら、引き離されまいとついていく。途中は意識を僕は失っていたようなものだ。ただ置いてかれたら、のたれ死ぬんじゃないか。白骨化して誰にも見つからず・・・。あぁ〜そんなの絶対に嫌だ!恐怖と不安が僕に信じられないほどの歩く力を授けてくれた。

助教授がいっていた絶好のポイントには2時間も歩いてやっとついた。
川の中ほどに大きな岩があり、その影にヤマメが、それも尺ヤマメいるという。
岩の後ろ側が滝つぼのようになっている。水しぶきが絶えなく白くなる。きれいな渓流だがその場所だけは、水面下は影さえも見えない。

助教授はもう少し上流へ行って釣ってくると宣言し、いつしかフランクに僕を押し付けて目の色を変え嬉々として岩場をぴょんぴょんしながら登っていった。山猿はもう視界から消えた。5分して「コペルをよろしく」と山をこだまして聞こえてきたのがせめてもの思いやりか。


フランクはさっそく竿に仕掛けをつけ始めながら僕にいった。
「釣りをコペルがしているとは意外だな。よく私たちについてこれました。よほどの釣りバカさんだな」
心の中で僕はフランクに会えればよかった。あとは今後の施術をお願いすればいい。釣りには興味はない。そうこころで叫んでいたが、息が切れて言葉にはならない。

フランクはそんなことお構いなしに釣りの話をし始めた。その話は僕の視野を広げるためのメッセージにも聞こえていた。


「あそこをみろ、コペル。水しぶきであそこだけ水中が死角だ」清らかな水が流れているようで、そこ意外は川底までしっかり見える。小魚が泳いでいる姿は、宙に浮いているようにもみえるほどきれいだ。「尺ヤマメはあそこに身を潜めて隠れているんだ。ここでじっと様子をみていろ」すると20分も息を殺していわれたところを注視していた。かわせみがいきなり視界にフレーム・インした。小魚を空中から狙っていたのだ。だが次の瞬間、40センチのヤマメが先にその小魚を横取りして跳ね上がった。ヤマメとしては最大級だ。かわせみは勢いに押されて退き逃げた。イワナと交雑したヤマメなのだろうか。獰猛なほどだ。イワナの餌は、トビゲラ、カワゲラなどの水生昆虫や陸生昆虫、さらにはサンショウウオ、カエル、ネズミなどを食べる。中には、胃袋から蛇が出てきた例も少なくないんだ。型が大きくなれば多くの釣り人から逃れ生き抜いた猛者。そこにいるとわかっても簡単に釣れるようなものじゃない。

フランクの、目の色が変わった。

そして僕にフランクなりの釣りの極意を語りだした。

「釣りをするには、水面ばかりを観ていてはダメだ。ヤマメの奴は水中で私たちの目にはみえていない。そこにいる。川面だけいくら観ていても奴の居場所はわからない。
水面に目的のヤマメはいないんだ。単純だけど忘れてはいけない。川の表面はみえるからわかりやすいが、観察力を活かして川底まで透視するんだ。
奴に挑むチャンスは少ない。一度失敗すればもう餌を食おうとはしなくなる。もうそこでその日の釣りは終わりだ」
瞳を閉じてウサギが周りの情報を集めるように、フランクの耳がぴくぴく左右に動いているように見えるけど。
「さあ、コペル。君ならどうやって挑むかい?」

そんなこといきなりいわれてもわかるわけはないが。きょとんとしている僕をよそに、また話を続けた。

「釣りをするときも、施術で人を癒すときも同じようなところがあるんだ」
「えっ?なんでですか」

「これは人体を見るときも同じことだろう?人の皮膚を観てもそこにしこりがあるわけではないんだ。的確に目的のしこりを見つけるには、しこりがあるところの匂いを嗅ぐ。そして体温をはかり、しこりの深さや形状などを手の感覚で触ってみて。目で見て解る情報ばかりではディテールがつかめないのでどう解くか計画が立てられない。役立たないのさ。
施術を習いたてのころは、人体が表面的にしか見えてこない。それ以上は見えないからそうなのだが、皮膚の表面に問題の根っこがあるんだ。それが見えないうちにアプローチするというのは、不測の事故さえ起きかねないというのは本能的にわかる。グレーなところが歯がゆいし不気味に感じて怖くなるのだろう」

確かに僕の体の中にあった固かったしこりに僕はいままで気づかなかったよな。見えてなかったからしかたないけど、施術をしているフランクには目に見えないものを観ているというのだろうか。僕が見ている人体とフランクが観ている人体が違うということを知らされた。本当だろうか。今の僕には、目の前の川のように皮膚の下はわからない。

ただわかったことは、フランクが釣竿を目的の川面に投げ入れたときのフォームの美しさだ。施術をしていたときのように、すばやく動いているのにスローモーションで動いているような優雅な動き。僕の目は、そのモーションに引き込まれ吸い込まれてしまう。小手先で苦しまぎれに動く自分と、フランクの動きの質は違うように思えた。どこが違うのかは表現できないが、違う。フランクの観ている”人間”はどんな姿をしているのだろう。僕はフランクに好奇心を持ちはじめていた。

ちょうどそのような大事な場面。

だったが、信じられない大声が聞こえてきた。助教授がこちらに駆け寄り「トッタドォォォ〜ッ」と甲高い山猿の雄たけび。満面の笑みが小憎らしい。気合を入れていたフランクの緊張の糸がぷっつん切れて、「信じられない!無礼千万」と怒り心頭で、この日の釣りを台無しにしてくれたということだけだった。


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フランクより

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人体を見るときのポイント。
表層筋と同時に深層筋も必ず見る

施術者は脳内にMRIで人体を層状に断面像を作るため
情報をかき集めます。

その患部は皮膚近くの表層にあるものより、
骨の近くにある深層部のほうが悪影響がでることが多いから、
奥の奥の骨の間際まで知りたいんです。

だから皮膚から何センチ内部に入り込んでいるか、
どれほどの硬さか、
どれほどの広さか、
どこまで遠方の筋肉等の組織まで影響を与えているか?
この患部のしこりはどのような運動や姿勢で作られたか?
どれほどの長きに渡って患部がそのままの状態にされたか?

調べることはわんさかある。

それをしない施術はリスクマネージメントなしに、
人体をいじるようなものです。
弱気になる。
こわごわとする。
そうなるのは当たり前のことです。

見えていないうちに堂々と「大丈夫です」と胸を張るのは無謀です。
そんなあとで「大丈夫だろうと思ったんですが」という、施術事故を起こすことは避けるべきです。


私の力量では体を一度チェックしただけで、
深部まで明確なことが見通すことはできないこともあります。
ただ見える部分と見えていない部分がわかるからこそ慎重な対応ができます。


見えない部分とは、
たとえば中層筋から硬化が著しくて、
その奥にある深層筋がどれほどの量で硬さかが見えていないようなときが多いですね。
だからそのフードになっている中層筋を緩めるにしたがい、
より深部の詳細がわかってきます。

内部の状態が見えていれば、
みすみす人を危険にさらすようなことはできません。
内部の状態が見えていなければ、
一か八かという賭け事をするようなもの。
触ってはならない危険な箇所を触ることもできるのです。

観ようとすればリスクを回避しつつ対応できる。
そうやって薄皮をはがして奥にまで入っていく。
そのような手作業が筋膜を深層まで解放する施術です。

時間がかかり地道な作業ですが、
着実に深部へと進む道を歩ける。


施術関係の一般書では
そこまで書かれている本は少数でしょ?

でもここが大切だと、
私は痛感いたします。


2010-03-13 | Comment(0) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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