第十一章:『パート・ナーワーク』タオルマッサージと靭帯性関節ストレイン - コペル からだとの会話

第十一章:『パート・ナーワーク』タオルマッサージと靭帯性関節ストレイン

そして第四週目の講習の日が来た。
ただこの日は少し状況が違っていた。

フランクと引き合わせてくれた助教授の佐々木先生の弟が、ここ5年来、自宅で療養中の生活をしているという。フランクは助教授に会うときは仕事の話をすることはまったくないそうだ。だから本当はフランクの腕がいいかどうかなんて、まったく知らなかったし、釣り仲間にそんな仕事のことばかり聞くのはご法度だ。
そのようなときに僕が大学に顔を見せるたびに、姿勢がちゃんとしてきたり、顔つきが変わっていったりと、変化に驚いていたようだ。
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そこで初めてフランクは腕のいい施術をするといくとこを知ったという。
そして今日は、助教授に頼まれ弟のケンジくんをここにつれてくる役をおおせつかった。ちなみに助教授が弟をケンジくんと呼んでいたので、なんとなく僕も彼をケンジくんと呼ぶことにした。ケンジくんは年齢は28歳。都内某有名大学を卒業して一流企業に就職した。だがまじめな性格のケンジくんは3年後に会社の人間関係に迷い苦しみ、欝にかかってしまったという。現在は心療内科に通院をしているのだが、安定した健康状態を保つことができず、仕事に復帰することもできない。
そこでわらをもすがる気持ちでフランクの施術を受けることで、なんらかの改善を適えられないだろうかということでした。ただ、僕が最初に心体融和道へ担ぎ込まれたときに痛いとか怖いとか怪しそうとか、敬遠したかった気持ちと同じか、それ以上に強い警戒心を持っているようだ。兄に強制的に命令されたようで、そのことも気に食わなかったらしい。
ケンジくんは、山猿に似た助教授の佐々木の弟だけあって体は丈夫そうだ。大学時代はアメフトをやっていたんじゃないかというほどの体格だ。手荒な強制連行をしようとしても、かえって山猿が叩きのめされることだろう。
なかなか通院までのハードルが高そうなケンジくん。
だからまずは僕が彼を連れてフランクにそれとなく引き合わせあげるようにということだった。

心体融和道に午後9時に、僕とケンジくんが到着。ケンジくんは「俺は、時間のムダだと思うんだけどなぁ。施術なんて非科学的なものでしょ。現代医学では認められてもいないそうだし。危険だよね、きっと。痛そうだし。」どこか僕もいったことがあるような、恐怖交じりの声だ。でもケンジくんは偉い。だれかに背負ってもらって強制連行されたわけじゃなく、自分の足で歩いてきているんだから!

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ケンジくんはフランクに合ったとき、やはり僕が感じたようなフランクのやさしく誠実そうな雰囲気に包まれたようだ。人は本能的に自分に対して攻撃しようとか策略を隠していたりすると、どうしても居心地が悪く感じてしまう。だがそのような発想を消してしまうほどの、サンタクロースをみたらこんな表情をするのかなという反応を取るのが精一杯だった。
フランクは特別な精神修養をしてきたのだろうか。この施術の仕事をすることで、少しずつ自分の内面を磨いてきたのだろうか。それは彼の大きな財産。売り買いできない宝物だ。

フランクは僕たちに昆布茶をふるまってくれた。そしてケンジくんが心が落ち着くまで、普通の世間話、つまり助教授の佐々木の話で盛り上がって、30分は過ごしただろう。

フランクは「今日のコペルの講習に、ケンジくんに一役買ってもらいたい」と提案してきた。ケンジくんはなんのことだかわからなかったが頭をすぐに下げてうなづいてくれた。僕もこれからなにが始まるかはわからないのに。

フランクはいう。
「よかった。それでは今日はペアでマッサージをする実習をしてみようじゃないか。別にコペルは施術者になりたいわけじゃないのは、私はわかっている。だが施術をするものの視点を持つことで、自分の体を客観視することができるから、そのセンスで自己内観すればとても役立つということになるんだ、いいね」

フランクは続けた。
「ではさっそくはじめようじゃないか。ケンジくん、このワークベッドの上にうつぶせになってくれないか?」

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「はい。わかりました。僕は痛みには強いほうだから、別にボキボキされても壊れはしないです。存分に実験台にしてもらってかまいませんよ」と男気のあるケンジくんはいわれたとおりにした。さすがに僕はもうそんなことをするはずないと察しは着いているのだが、ケンジくんは、どこぞのバキッ、とかウォッ〜と叫びたくなるような手荒な整体を思い描いているらしい。
僕は、「ケンジくん、ありがとう。ただきっと大丈夫だと思う。フランクは痛い施術をすることはないし、僕もぜんぜんそんなことはしようとは思ってもいないですから。安心してください」

フランクは机の引き出しを引いて、中に重ねておいてあるタオルを取り出した。それも5枚くらいの枚数になる。なにをするのだろうか?
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まずフランクがケンジくんの体をチェックしていく。体の細部をみていきフランクはうなづいていた。
多くの体の硬化した部分を見つけたのだが、特に臀部がコチコチというかカチカチという。


「たとえば臀部の表面は表層の皮が分離してゆるく動く感じだが、その下は梨状筋や中臀筋も固いし、骨盤を取り囲む靭帯群がほとんど骨と同じほどの固さになってしまっている。仙腸関節もほとんど動くことはできない
肺と臀部の問題はリンクしているので、臀部が固いと肺機能が活躍しにくいと、東洋医学ではいうのです。ケンジくんは、いま、いつも呼吸が実際に苦しくて仕方ないはずでしょう」という。




「コペル。ケンジくんのお尻をチェックしてみて」
「すいません。ケンジくん。触らせていただきますね」
「あまりかわいくないもんですけど。どーぞ」とケンジくんの了解をゲット。


そして触らせていただいて驚いた。フランクが言っている言葉通りのことが僕の指先にも伝わってきたからだ。


子供のころの町工場の職人さんに「素人はわかるものじゃないよ」といわれて研磨してフラットにしなければいけない真鍮を渡された。確かに必死に真鍮の表面を触ってみても、僕にはすでにまっ平らになっているとしか思えなくて悔しかった。そんな記憶があるため、フランクのような職人として長年鍛えていなければ、人の体の小さな凹凸なども見えないし、わかって大きな筋肉の固いところ程度だろうと思っていた。だが目を閉じて指先の感覚を最大限に開いていくと、髪の毛の太さ程度のものも鉛筆の太さ程度の大きさにも感じられている。


「フランク。僕、指先でものが観えるよ!」驚いてフランクの目をみた。

「それは上々ですね。
今までの修行の成果かもしれません。
立禅で気を丹田に鎮め肩関節をベストポジションに据え置けば、指先が高性能のセンサーに変わる。そしてコペルは今、ケンジくんの体の表面だけを見ればいいという素人感覚を持たずにいる。どの深さに目的のものが埋まっているのかを見つけないと意味がないということがわかっているんだね。ケンジくんの真の問題点はもっと奥にある。眼球でとらえられるものじゃない。内部感覚で自分の内側を見てきた観察眼は、自分の体内部分だけではなくて、もう少しだけ拡張できることも、触覚的にわかってきているのかもしれない。

あとは体をチェックするときのする側の姿勢は、多くのときは膝を曲げて股関節をうまく使い脊椎をまっすぐにして測るものだ。その力も立禅で養われていたということになる」

「そうか。気づかないうちに僕は、少しずつ施術をするための基礎をフランクから習っていたようなものなんだね」

「ハハハッ。結果的にそうなるかもしれないけど、別にそうしようと考えてはいないよ」

フランクは続けた。「じゃあ、タオルを利用したマッサージ法を教えていこう。日本には寒風摩擦という健康法がある。風が吹きすさむ寒いときにたわしや荒縄などをつかって体を摩擦をするものです。血行がよくなってマッサージ効果も高いものです」

「タオルでこすり付けるようなやり方ならばそんなに痛そうじゃないですね。もし手の指先などで深い筋膜層を圧迫しマッサージするときには、狭い点で皮膚に当たると痛みが出てしまうときもあるから、あまり強く押せないわけだから。タオルが目的部分に密着する量が増える。摩擦面が広がる。そうなれば圧量を増やすこともできるから。痛みが少なく効率的に患部に摩擦熱を与えることもできるでしょうし

「コペル。なかなか鋭いところをついてきますね。さすがは機械工学。ほとんどそのイメージどおりです。そのような痛みを軽減させ摩擦熱を増やすメリットがあるため、マッサージを受けるものは快適なんです」

フランクは説明を続けた。
「ちょっとケンジくん。実験に付き合ってください。もしナックルで臀部の奥にある梨状筋にアプローチするとしましょう。ちょっとだけ圧をかけますが、痛かったら言ってください」
そういって臀部の中央部分を押した。

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するとケンジくんは、「うっ」という、うなり声を上げて、身を固くした。
フランクはそんなに強い力をかけていないように見えたのだが、ナックルの拳の突起部分があたると、炎症で強烈な痛みが内側から表面にでてくるわけだ。
「じゃあ次にタオルを数枚重ねた状態で患部と私の手の間に挟んで圧をかけてみるよ」
そういってからかなり強烈な力をかけていく姿がみえた。フランクの腰が入っている!こんなに強い力をかけたら、いくらタオルをはさんでいてもケンジくんはかなり痛いんじゃないかなぁ。恐る恐るケンジくんの表情が見えるところに回り込んでみた。すると先ほどの表情とは打って変わって、痛そうなそぶりさえなく、気持ちよさそう。

「フランク。今、かなり強い力をかけているように見えるけど・・・。ケンジくんの表情は痛みをそれほど感じていないように見える。患部に直接圧がかかっているわけで、そこまで痛くないとは、ちょっと信じられないんだけど」

「人間はね、凸凹した圧とか突起した部分がある圧を受けるとその一点に意識が集中してしまう。そうするとその不快感は強く感じてしまうものだ。それがタオルで圧が均一化されて押されたり、または狭い一点に圧が偏るようなことがなくなると、患者の体の皮膚や患部の筋肉も広い面でその圧を受け取ろうとするんだよ。単純だけど、鉛筆の尖った芯のほうで突っつかれるか、鉛筆裏についている消しゴムの部分で突っつかれるかほどの違いを感じ取れるわけ。その差は、鉛筆の芯のある尖ったほうで突っつけば、強すぎれば傷ついたり怪我をするが、裏側の消しゴムのほうであればあまりそのような危険なことは起きない。つまりこれを応用しているから素人がこの方法でマッサージをするときには、とても安心だし、受ける人もダメージが少なくて心地よいという特徴があるんだ。じゃあ、こんどは君の番だ」

「わかりました。じゃ、タオルを・・・あれ。最初は手で押せだって?そんなかわいそうなことはちょっと。軽く押すだけでいいからって。・・・ごめん、ケンジくん」ケンジくんの「うぉっ」という爆裂的な雄たけび。別に強く押しているわけじゃない。ケンジくんが固くなりすぎて、炎症が強すぎるためだから。あまり強く人の体に圧をかけたり、押したりすることは、今までしたことがないから、気分的に気が引けてやりづらい。なんだか患部が皮膚の奥にあるのがわかっているけど、そこまで手を伸ばして圧をかけたいが、こわごわした感じでしか、どうしても触ることができなくて。人の体を触ることの怖さを、はじめて知った。苦手だなあ。。。

次にフランクがタオルを8枚重ね程度の厚さを作った状態にして、結構クッション性を増したタオルを作ってくれた。今度も同じように圧をかけようとするが、なんだかタオルを押しているという感覚が強くて、直接ケンジくんの患部を触れてしまおうとしているような緊張感は薄れている。というか、ほとんどない。圧をかけていいかどうかのプレッシャーが、先ほどの1/10ほどに感じられる。不思議な感じだ。それに、クッション性のあるタオルをはさんでおくと、圧迫をされる人も痛みが少なくなるんだけど、僕の手も痛みがなくて快適なこともわかった。だって体重をいまぐぐっと乗せても、ケンジくんの体の凹凸をうまくタオルが均一にしてくれるようで、僕の圧を伝えてくれるから安心だし僕の手はぜんぜん痛くないし。



「しまった。ごめん、ケンジくん!つい強い力をかけすぎてしまった」
不用意に強い力をかけすぎてしまった自分の行為に驚いてしまった。
「コペル君。ぜんぜん俺、痛くない。痛気持ちいいっていう感じで、ちょい癖になりそう」っていって本当に余裕を感じているようだ。

これには僕もびっくりした。単純にタオルを間に挟むだけで、これだけ受ける人の体を守ってくれているんだと。

フランクが僕にいった「ケンジくんの体で固いところを僕はいくつかみつけました。たとえば骨盤底筋の近所だし胸骨周囲の肋間筋のいびつな萎縮だし、首筋の斜角筋や胸鎖乳突筋だし、頚椎だし、仙腸関節周辺だし、ふくらはぎだし。これらはかなり深層部までしこりが石灰化しています」
「石灰化って?」
筋肉を取り巻く筋膜組織や靭帯や腱などのコラーゲン質の軟部組織が硬化したり、ときには関節周りにカルシウム成分が漏れ出して関節に楔状の石のようなものになってしまう。このようなものをゆるめるには、先週お伝えしたカウンターストレインだけでは、太刀打ちすることができません。できるならばカウンターストレインである程度患部をやわらかくしてから、今回のタオルを使ったマッサージをおこなうのです。そうすれば大変に効率よくとりにくいしこりの部分をも緩めることができるようになるのです」

「なるほど。技を複数使い分けてことに対処せよ、というのですね。勉強になります」


「それでは次にもうひとつ、問題点を見てみよう。今度は膝裏のこの出っ張っているところをみてくれますか。ここです。
ケンジくん、ちょっとごめんなさい、軽く触ります」そういってフランクは、ケンジの右ひざ裏を触った。
するとケンジくんは「うぅぅ〜ん」という先ほどとは違う痛がり方を示した。
ケンジくんがまたびっくりした声をあげた。

なんで俺の膝裏にそんなに痛いこぶみたいのがあるんですか?!肩の付け根まで、その痛みが立ち昇ってきたのがわかる。信じられない!」
フランクは簡単に解説を加えると「膝裏のしこりを” ひかがみ”と呼ぶことがあるんだよ。それは操体法という施術の技術でひかがみの解き方という言い方をしていたから、日本ではそう呼ぶのかもしれない。
腰が前に反っていて腰椎が前湾曲していると膝がいつもちゃんと伸ばせずに膝関節のはまりが悪くなるんだ。そうすると膝の関節にがたつきがでてしまい、それを押さえ込まなければならない。そのとき過剰に膝裏を使ってがんばってしまう。それが月日を経てしこりと化してしまうのです。
ただそのしこりは本人が意図的に作っているようなものじゃないから、なんでできたのかもわからない。むしろ施術を受けたからこんなしこりがでてきたんだろうと勘違いする人さえいる
あとは、立ち方や座り方、そして歩き方などの基本的所作振る舞いができなければ、関節周辺にこのようなダンゴ状の炎症体を作るしかない。だから、手馴れた施術者はそのような問題点がその人にあるかどうかは、その人物と数分対面して観察すると、いろいろと察しがついてくるものです。歩き方や姿勢を機能的にすることは、体内に不要なしこりを作らない予防にもなるということです

話を続けた。
「余談だが、膝裏のしこりを押されて肩の付け根まで痛みが伝わるのは、アナトミー・トレインという体のなかの筋肉の連関性を解説する本では浅層のバックラインというものが影響して感じられることなのかもしれない。経絡的な観かたでは足の太陽膀胱経というところだろう。そのような知識がなければ不思議なことのように感じられるかもしれないが、筋肉同士の関連性を知っていれば、不思議さはなくて、硬化した部位の大切な深い情報をケンジくんがくれたことになるのです。ここまで詳しいことを知らなくてもよいが、体のある部分を解いたら他の部分にまで影響がでてくることはよくあること。だから、もしコペルが、その患部を解くとどのような関連した影響がでるか予測が不可能であるときは、解きすぎてはなりません。最低限、少しずつ解いていって安全を確認しながらというようにするべきです」

「はい、わかりました。そこから先は専門知識が必要で、それがなければやりすぎてはいけない。そういうところもやはりあるんですね」

「そうなんだ。
体には恒常性という生物の内部環境を一定の状態に保つ働きがあり、昨日の状態と今日の状態とが急激に変わりすぎることは、ときとして身を危うい状態に陥れることがあるので好まないのです。たとえば昨日は体温が35度ある人が明日は40度であさっては45度とかなろうとはしなくて、体は明日もあさっても35度にしようとするんです。ただ36度のほうが冷え性が治ったりできるはずなのに、それを意識では認識していても36度にはしようとせずに、35度に設定したメモリをあわせようとします。そこを36度にすることの難しさが控えているわけです」

フランクの話は続く。
「これと同じことが体の使い方の癖にもあるのです。習慣的な動き方を覚えるとその動き方を一定に保つような傾向があるのです。
それは体にゆがみがある人ならば、ゆがみをキープするための動き方をしているため体のゆがみはそのまま維持されていくのです。
運動神経や姿勢神経を無意識にコントロールして、今までのゆがんだからだの状態を保存しておくという恒常性はかなり強力なもの。

君が体の使い方を意図的に変えようとしてがんばってみても定着した姿勢や体の使い方に引き戻そうと裏で働くのですから。
慣れ親しんだ居心地のよい状態に君の中のもうひとりが固執してしまう

この固執から逃れるためにはそれを切り離すべく、いったん生まれたままの感覚にリセットしてしまうしかないんだ」

僕は、ちょっと眉間にしわを寄せごくりとつばを飲んだ。
「怖い話だと思います。心理学的アプローチで禁煙をする本を読んだことがあるんですが、喫煙を正当化するような悪魔の声が禁煙を阻止させようと強く働きかけるようですが、そのような声にならない声が体の中を支配しているのかもしれないですね」
体の中に得体の知れないもうひとりの自分がいるようで、ちょっと恐ろしいように感じられた。だが、もしこの恒常性と戦う武器さえあれば、これは大発見だろうと直感したんだ。それも、それとなくすでにフランクはそのヒントを僕に伝えているんじゃないかとも思う。

フランクが言う。「まずは理性で、悪癖を続ける不利益を直視すればいい。損か得かで、明らかに損をしているならば止めたくなるのも人間だ。何気なくやっているという、自己観察の未熟なときには、損か得かが身にしみて判断できないんだ。これではいつまでも理性が働くためのデータはあつまらないでしょう。その点は禁煙療法と考え方のベースは同じだよ。
無意識にしている悪癖は、こっそりと隠れたところで暗躍するという習性があるんだ。だから体の使い方を常に検証されて良し悪しを判断されてしまうと、悪さができなくなるんだ。そうするために日常の体の所作を意識的にしていくことが大切になるわけだ。たとえばヴィパッサーナー瞑想という、釈迦が仏陀になるときに実践した瞑想をしていけばいいだろう。
またはサトル・ムーブメントと呼ばれるような性質の動き、たとえばフェルデンクライス・メソッドの実践なども勧めたいところだ。
あとは使い古されてパターン化した動き方を手放すためには、今までしたこともない新たなパターンの動き方のバリエーションを増やして、そのなかから最適な動きを選択することだろう。これにはマイムの動作も参考になるだろうね。とにかく、選択肢を増やすよう自然に振舞う習慣がつけば悪癖からの支配から抜け出しているはずですから」

「なるほど、いわれてみると、思った以上に行き過ぎた恒常性を再検証する方法もずいぶんあるんだなぁ」

「そうですね。コペルにはおそらく私がいま教えたもの以外の、もっと誰にでもすぐ対応しやすい方法を考えてもらいたいな。
コペルニクス的発想でね。

ちなみにだけど・・・・・施術とは、すぎた恒常性を維持しようとする部分を、補助的に弱めてあげる役割があるのです
たとえば体の使い方を丁寧に勉強するには、かなりの時間がかかってしまうでしょう。
それが私の施術を受けて、体の中の内部感覚が活性化するということで、バレエやヨガや武道などをしているお客様も多く通ってくるんです。
動き方を学ぶ自己努力と施術を受けてそれを加速化するのが狙いでしょう

このような説明は、僕にはとても刺激的だった。でもケンジくんにはチンプンカンプンなことで、気がついたら、不眠症だと悩んでいた彼はもう眠っている。

ケンジくんが寝ている間に、そぉっと僕に膝裏のひかがみのしこりを確認させた。
そしてフランクは下脚を持ち上げて膝下を、梃子の原理を活用して膝関節部分を縮める操作を3度ほどした。
それからまた僕に先ほどの膝裏のしこりがあった部分を触らせた。
すると、たった数度フランクが調整しただけなのに、明らかにひかがみのしこりの量が小ぶりに変わっている。それにケンジくんはまだ眠ったままで、痛みなど感じたそぶりもない。

フランクが今おこなった施術の説明をしてくれた。
「今おこなったのは、オステオパシーの手技の一つ靭帯性関節ストレイン。そのテクニックの応用系でひかがみにアプローチしてといたんです。
そしてこのひかがみのしこりが小さくなると、ケンジくんの腰の張りや首裏の張りなどが少し改善される影響がでているはずだよ」

靱帯性関節ストレイン


「なんだかこの靭帯性関節ストレインというテクニックも不思議な施術ですね」

「不思議かもしれないですね。シンプルな方法で,ものすごく施術効果が高く、即効性もある。
これは靭帯や腱などの筋肉組織以外の部位のリリースを狙ったテクニックです。

体の中にあるのは筋肉という赤身の部分がほとんどでという固定観念をはずそう。
靭帯や腱や筋膜などの白い色をしたコラーゲンでできた組織が体の多くの要所を締めていることに気づけば、
靭帯性関節ストレインの必要性はわかってくると思うよ。
靭帯や腱の部分は筋膜が癒着するのと同様に、強いしこりとなってしまうから、それをリリースする方法なんですね」

フランクが、改めて人体解剖図をみせてくれたが、確かに多くの白い部分が筋肉の周囲に含まれていた。観察してみると、本当にそのエリアは大きいことに驚いた。
「靭帯部分の問題箇所を緩めるって、きっとすごいことなんですね。
靭帯部分は関節の周りにあるため、骨格のゆがみに想像以上に影響を及ぼしているはずだから。そこを自在に解けるようならば、体のゆがみを調整するための詳細なメンテナンスができる武器になりそうですね。すごいや」

「そうだね。それに大きな関節の周囲にある靭帯が硬くなるとその周囲の血管やリンパ管などの強烈なダムとなってしまう
この靭帯性関節ストレインはそれらを緩める有効な技術が紹介されている。
このような靭帯や腱などは一般的なマッサージでは解放する範囲外の部分ということもあり、質の違った成果を体感できる。うれしいところでしょう」

靭帯性関節ストレイン。すばらしいテクニックだと思う。だけど気がかりなことがある。。。
「ただ・・・僕のような素人が人の体を触るときには、壊しはしないかという緊張感があって。どうしてもおっかなびっくりしてしまうのです」

「そういうものだと思うよ。私もいまだに施術をするときは恐ろしい。恐ろしい緊張が襲ってくるものだ。やめて逃げたくなるようなこともある。それが本音だよ。もしかしたら施術のミスで人を殺してしまうのではないかとうなされるほどだ。だが私は中途な気持ちで逃げ腰になるよりは、恐ろしいからこそ人の体をもっと知って、その恐怖心を乗り越えようと考えているのです

「恐ろしいから止めるか、恐ろしいから真剣に立ち向かうかか・・・。真剣に立ち向かうならば、利益は大きそうですね。ただ、今の僕にはちょっと施術の山はヒマラヤほどの高さに思えてなりません」

「施術家にコペルはなりたいわけじゃなくて、自分の体と向き合って、健康を取り戻したいというのが目的だ。だから私がやるようなところまで時間や労力をかけて取り組まなくても問題ないだろう。少しだけでも施術とはどういものなのかが認識できているならば、今後の君の健康の維持や促進に役立つかどうかの真価が判断できるようになるだろう?それだけでもいいじゃないか」

「なるほど、その通りですね。おかげで施術が僕にとって役立つツールだということが、手の感覚でわかるようになってきました」

「それはよかった。蛇足ではあるが、コペルに、マイムの動きを練習したらよいといっておいた。この技術を施術をするものが取り入れれば、施術精度を高められる。私はそれを実感しています。
だからタオルを使ったマッサージをしたり、カウンターストレインをするときも、このマイムの技術がとても役立つようになっているんだ。だから君はがんばってマイムの練習をしていたから、何度か実践を積めば妙にうまくなってしまうかもしれないよ」

「うぅ〜ん。やっぱり施術をやるようにって、きっちり仕込まれているような気がしてきましたよ(笑)。
確か僕にフランクがノートに書いてくれた図に『体の操縦法』『施術のノウハウ』『こころの操縦法』というものがありましたよね、体の操縦だけではなくて施術のノウハウも僕に最初から教えてくれようとしていたんですね!」

その後、フランクから僕の体にしておいたほうがいい一人でもできるタオルを使ったマッサージ法のレシピをくれた。靭帯性関節ストレインは、どうしてもペアでなければできないから難しいのだがということだが、資料として僕の体に必要なテクニック法をコピーして渡してくれた。

そしてケンジくんは、僕らの講習が終わったごろに目覚め、ひとり、「ここはどこ!?」とパニックを起こしていた。ただケンジくんは、何年待ってでもフランクの施術を受けたいという決心がつき、心体融和道のWaiting Listに登録してもらっていた。

施術家ごとに、どのような施術をするかはそれぞれだ。同じ整体やカイロプラクティックなどと名前がついていても、どのような施術をして、それが自分にマッチするかどうかは、実際にその施術に触れてみることがなければわからない。
そんなことをケンジくんを見ていて強く感じた。もっと気楽に施術家の施術を見学できたり体験できる機会があればいいのに。そうすれば現代医学という選択肢の次に民間の施術家の施術を受け入れてもいいと考える人もでてくるのだろうか

ケンジくんと一緒に駅まで歩いた。しきりに未来に明るさを感じられてきたと喜んでいた。フランクの技術についてはケンジくんはぜんぜん良いも悪いも今日のところはわからなかったはずだが、フランクの人柄が彼に勇気を与えてくれたのだろう。わかるような気がする。フランクみたいな人は、いそうでなかなかいないよなぁ。
そんなことを考えて、助教授の佐々木に借りは返したとにんまりする僕でした。


2010-03-05 | Comment(0) | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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